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2016年03月30日

までもそんなこ



「やだあ。あたしなんか、もう、完全におばさんよお」
 言ってることが少しも冗談になってないので、早苗は曖昧《あいまい》に笑ってごまかした。
「もう、二人の子持ちなんだから。上の子は、今年小学校。早苗は結婚は?」
「まだ」
「ええ? まだなのお?」
 どうせ聞かれることになるとは覚悟していたが、開始のゴング早々、いきなりパンチを浴びせられた気分だった。
「何だ。北島、まだ、シングルか?」
「えー。そうなのかよ。俺にもまだ、チャンス、あるかな?」
「あんたなんかじゃ、だめよ。早苗に釣り合うのは、もっと頭のいい人じゃないと」
「北島のタイプってさ、太宰治みたいな暗めのやつだろう?」
「やっぱり、並の男じゃだめか。でも、いつと言ってると、そのうち、即身成仏だぜ」
 今度は、まわり中から雨霰《あめあられ》と砲弾が降り注ぐ。座には、ほかにも二、三人、独身女性がいるはずだったが、早苗を援護してくれるどころか、彼女だけが注目を浴びていることが不愉快だというような表情で、そっぽを向いている。
 早苗は、鍛え抜かれた笑顔と、「私、仕事と結婚してますから」というお決まりのセリフを弾除《たまよ》けに使い、ひたすら一斉攻撃が途絶えるのを待った。
「あいつらはみんな馬鹿なだけだからね。気にしない方がいいよ」
 ようやく座の関心が早苗から離れたとき、晶子が言った。
 この中で高梨のことを知っているのは、彼女だけである。
 気づかってくれているのがわかり、早苗は微笑《ほほえ》んだ。
「気になんか、するもんですか」
「それにしても、あんたが同窓会に顔出したがらない理由、今わかったような気がする」
 晶子は、刺身を醤油《しようゆ》に浸しながら、しみじみと言った。
「別に、出たくないわけじゃなかったのよ。だけど、なかなか時間がとれなくて」
「そうだろうね。あ、そうだ。|復讐の女神《エウメニデス》に追いかけられてたおじさん、元気にしてる?」
「え?」
「ほら。電話で聞いてきたじゃない? そういう妄想に悩まされてるおじさんがいるって。おじさんとは言ってなかったかな。忘れたの?」
「ああ」  


Posted by 清風伴明月 at 11:21Comments(0)